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001 ヒアシンスハウス
 
もうひとつのヒアシンスハウス その二

 現在のヒアシンスハウスが建つ位置は、立原がもともと意図していた地点とは明確に異なっている。そのことから始めて、新たに再現された(としか言いようのない)ヒアシンスハウスのオリジナルからのズレ/距離の問題について考えてみたい。

 本来、湖畔の東側を想定されていたヒアシンスハウスは、敷地こそ湖畔西側を選択せざるを得なくなったが、建築のオリエンテーションは保たれたことにより、ひとつのねじれが生じた。ベッドの脇に添えられた、沼を望むための小窓から、今はわずかな木々や建物が見える。朝陽を最大限取り入れる、建築の見た目を特徴付けている大きな窓は、やはり朝陽を受けつつも、並木越しの別所沼をその枠内におさめている。しかし、おさまった風景は、立原が小窓から得ようとした湖の反対側から眺めた姿だ。それならば、と沼の東側へと足を運んでみる。そうか、おおまかにはこの辺りからの景色を小窓に求めようとしたのかな、と納得しようとすると、沼の向こうの並木の先に、木々の間からヒアシンスハウスがちらりと姿を見せている。

001 ヒアシンスハウス

「何をまどろっこしいことを・・・。」

 と、私自身思わないのではない。しかし、このまどろっこしさは、ボランティアの方から聞かされたひとつの事実に、ひいてはヒアシンスハウスの在り方そのものに導かれて入り込んでしまった袋小路なのだ、という気がしている。今、中へ入り込み、椅子に腰掛け、壁に触れることが出来るヒアシンスハウスを目の前にしながら、あり得たかもしれないもうひとつのヒアシンスハウスに、沼の東と西を行ったり来たりしながら、考えを巡らせ始めてしまったのだ。引き金となったのは、ズレた敷地、という仕掛けに違いない。そう思い込んでしまった眼で見つめ直すと、ほとんど真四角に縁石によって周辺を縁取られたヒアシンスハウスは、切り抜かれてどこかから運び込まれたようにも見える。または、真四角の敷地が、一分の一スケールの模型のために用意された土台のようだ、とも言えるだろうか。勝手気ままに生える雑草が生み出す気配も手伝うのか、既に風化を始めているヒアシンスハウスは、まわりとは異なる時間を経過しているようにさえ、思えてくるのだ。それは、現在のヒアシンスハウスを目にするとき、立原が夢見たはずの、もうひとつのヒアシンスハウスを、頭の中に描かせようという作用が働き始めるからなのではないだろうか。(s)

   
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