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010 米軍ハウス
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横田基地
私は横田基地を挟んで福生と対岸にある武蔵村山に生まれた。基地、フェンスと4m道路、我が家。毎朝、目やにを付けたまま着替えて朝飯を食い、玄関を出て飼い猫にひとにらみされてから、ぎぃぎぃウルサイ門扉を開けると、視界に収まるのは壁を乾いた土色で塗り上げたアメリカであるという日々を八歳まで過ごした。貧弱なツタを網目に絡ませたフェンスと緑の芝生やさきほどの土色の住居を背景にした家族写真が幾枚もアルバムにはさまっている。
ある昼下がり、フェンス越しに二人の子供と小競り合いを演じた。私も兄と二人。知っている英語は「ハロー」と「ファックユー」。このころ基地の中で英会話を習い始めていたが、「マウンテン」を覚えられないほどの阿呆であった。始まりは既に忘れた。私と兄と二人が声を振り絞っての「ファックユー」に二人のアメリカンは猛烈な感情で応えた。網に手をかけフェンスを揺さぶり、カラーバットで地面を掘り起こしてこちら側への進出に向けて一心不乱である。私たちもおおいに興奮してその後のことは忘れた。最後に向こうのダディーが出てきて、信じられないような形相で怒鳴り散らされた。不思議とフェンス越しにアメリカ人と交わした会話はこの一度きりだった。
またある夏の夕暮れ時には、親戚か近所のおじさんにでも貰ったクワガタがするりとフェンスを抜けて逃げ去ったりした。なんとなく惜しかったような、でも起こりえたことであったような気分だけは未だに思い返すことがある。
3mに満たない、有刺鉄線を上部にクルクル巻き付けたフェンスを目の端に捉えながら米軍ハウス巡りを行っていると、だいたい以上のようなことが思い出された。私的なことをくだくだしく書いたが、たまのことにて許していただきたい。(s)
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